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いつからか空を見上げることが怖くなった。夏の空はとても高くて、なんだかすべてが嘘みたいだ。自分が此処に居ることすら、わからなくなる。背を押す風に誘われて、コバルトと入道雲の隙間に融け入ってしまいそうだ。私はいま、此処に居ない。 待ち合わせは何度重ねても慣れない。相手が本当に現れるのかどうかという恐怖に押し潰されそうになる。それでも待たせたくないから早めに着くようにする。集合時間は午後三時、三日
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男は夢を見ていた。その夢には温度も記憶もあったが、それは夢に違いなかった。 隣に住む女――年端一八もいかぬ、長い白髪の華奢な――彼女はいつからか居たが、それが具体的にいつのことであったか、男は微塵も思い出せないのだった。男はこの街に来てからもう六年の月日が経とうとしていた。 男はネクタイを締める仕事は避けて生きてきた。学問は好んだが、社会というものに染まるくらいであれば、と家の近くの古書店で